ニュージーランドで釣りをするようになって、釣果(釣った魚のサイズや数)に対する感じ方だけでなく、釣り道具に対する見方がだいぶ変わったように思います。実際、日本の釣具メーカー(特にシマノ)は、日本国内用と海外用で多くの全く異なる製品を開発販売しています。トローリング・リールこそ、国内外でほぼ共通ですが、それでも小型のトローリング・リール(例えばシマノTLD10、TLD 15等)は、日本では見ません。日本で一般的なディジタル・カウンター付のリールや、電動リール等も2010年頃からようやく海外で売り始めました。代わりに、もっと頑丈でカウンター等のつかないスター・ドラッグ・リール(Tecotaシリーズ等)を売っています。日本では、船用のタイ釣竿といえば胴調子で柔らかい長尺(3m前後)竿ですが、そんな竿はニュージーランド(多分日本以外のどの国でも)のどこを探してもありません。国や地域に応じて異なる製品を開発販売するのは、実際すごく面倒でコストもかかるにも関わらず多くの日本の釣具メーカーがそうしているのは、地域特有のニーズがあるからと考えるのが自然でしょう。という訳で、道具から日本とニュージーランドの釣りの違いを見ることもできます。
先ず竿を見ると、トローリング竿は、バット部分を外せますが、日本に良くある並継ぎや印籠継ぎで分割できる海釣り用の竿は、ニュージーランドにはあまりありません。この理由は、電車やバイクで釣りに行く人がいない(車か、徒歩)、小物釣りのつもりでもサメやエイ、タイやヒラマサの大物が釣れることが珍しくない、ニュージーランドの釣り人は釣り道具の価格に敏感(高いものは買わない。)ということでしょう。竿に継ぎ目があると、どうしてもそこが強度上のウイークポイントとなり、価格も高くなります。魚種毎に長さ、調子、硬度の全く異なる専用竿を使うこともないので、基本的に売っている竿の種類が少ないです。たいていの人は、ライン・クラスの異なる数本のトローリング竿とアジ等の餌釣り用ライト・ロッドを持っている程度です。釣具店でも、日本の様に海釣りの各ターゲット専用の竿を売ったりはしません。ただ、最近はメーカーも商売がうまく、ジギング専用竿、ソフトベイト専用竿、スロージギング/マイクロジギング専用竿等を売りだして、一人で何本も竿を持つような流れもあります。
次にリールですが、IGFAでは電動リールを認めていませんので、スポーツアングラーが電動リールを使うことはありません。ディジタル・カウンターもトローリングでは不要です。アンカーを打ったり、流し釣りをする場合でも、タナは常に底からとりますのでやっぱりディジタル・カウンターは不要です。そもそも、こちらではタナ取りが重要となるアジやイサキ(イサキはいない)、イカ等を釣る人がいません。同軸リールでは、トローリング用レバー・ドラッグ・リールと、それより小さいレベル・ワインド付スター・ドラッグ・リールが良く使われます。数100キロのカジキ、数10キロのマグロ類、10キロ以上のタイやヒラマサを相手にする場合、道具選びで大切なのは竿、道糸、リールのバランスと、これらが一体となって道糸の強度ぎりぎりまでの力で魚とファイトしながらも、その限界を超えないことです。そのために、リールのドラッグ性能は極めて大切です。レバー・ドラッグ・リールは、素早くドラッグ力を変更出来、ドラッグの耐久性と安定性が優れているので、大型回遊魚釣りに最も適しています。レベル・ワインド機構は便利ですが、時に道糸に余分な負担をかけるので有害です。あまり走らない根魚やより小型の回遊魚狙いなら、レベル・ワインド付のスター・ドラッグ・リールが適当です。スター・ドラッグは、ドラッグ力の変更がワンタッチではできませんが、逆にレバーやハンドル操作で瞬間的にクラッチを入れてアワセを入れることができます。レバー・ドラッグ・リールでは、竿を持つ左手(ただでさえ疲れるのに)の指で道糸をガイドし、リールに糸を均等に巻かねばなりません。最初に、レバー・ドラッグ・リールを使った時には、何でこんな重くて使い難いリールを使うのかと、リールを海に投げ出したい気分になりましたが、日本でしか売っていないディジタル・カウンター付スター・ドラッグ・リールで8キロのヒラマサを釣った時に理由が分かりました。魚を寄せては走られて糸が引き出さされるという事を繰り返すと、ドラッグ強度がどんどん弱まります。ドラッグ閉めても、また弱まります。このヒラマサは無事取り込めましたが、その後もこんな風に何度も酷使されたこのリールは、ドラッグが磨耗してしまい今ではドラッグ不要の小物釣りにしか使えません。スピニングリールについて言うと、磯からタイ、ヒラマサ、時にはカジキまで釣ろうという人はいますが、日本のグレとかチヌ狙いの磯釣りのような繊細な釣りをしませんから、ブレーキ・レバーのついた磯釣り用スピニング・リールはありません。逆に、シマノが海外で出しているベイト・ランナーというスピニング・リールは、大ダイを狙ったストレー・ライニングにぴったりのリールですが、日本では売られていないようです。このリールには、通常のスピニング・リール機能に加えて、ベイト・ランナー・モードをオン・オフするレバーと、ベイト・ランナー・モードでのブレーキ力を調整するダイヤルがあります。ベイト・ランナー・モードがオフだと通常のリールと同じですが、キャストして竿をホルダーにセットしてベイト・ランナー・モードをオンにすると、僅かの力で道糸を引っ張っただけでスルスルと糸が出て行きます。これは、普通のリールでドラッグをユルユルにした時と同じですが、いざ魚が餌を食って走ったら、ハンドルを回転するだけでベイト・ランナー・モードがオフになりアワセを入れてやり取りを開始できます。私の様に両軸リールで遠投するのが苦手な者には、これなしでは大ダイを釣るのは困難と言える程のスグレモノです。どんなタイプのリールでも、良いドラッグとは、滑り出しが滑らか(道糸を引っ張ったときヌルヌルという感触で糸が出ていく)で、糸を引く速度を変えてもドラッグ力があまり変化しない、長時間寄せては走るを繰り返してドラッグが発熱してもドラッグ力が変わらず、長年使っても特性が変化しない(磨耗が少ない)ものです。
道糸は、100m以上の深場釣り以外は、ほとんどナイロン道糸しか使いません。記録を狙うなら、強度の正確なナイロン道糸製品を使います。これらの道糸は、ラインクラスぎりぎりの強度を全長にわたって正確に保持するよう製造されています。例えば、10キロの道糸をライン・テスターを用いて破壊検査すると、9.7キロとか9.9キロとかで切れます。9.1キロで切れてしまうのは良い糸とは言えません。更には、10.1キロでも切れなかったら、この道糸で釣った魚を10キロクラスの記録にはできません。若しこんな経験を一度でもすれば、そのアングラーは2度と同じ製品を使うことはしないでしょう。ニュージーランドでも深場釣りに新素材の道糸を使いますが、日本製よりも安い代わりに強度が低く、長さを見るためのマーカーも染色されていません。ただ、最近(2018年)日本製の新素材(PE)が販売されて、ソフトベイトやタイカブラ等の釣りにも使われ始めています。ナイロン道糸が多用される理由は、価格が安く、ラインクラス毎に正確な強度で製造されていて、ラインの伸びによるクッション効果もあるためです。ニュージーランドでは、概して硬い竿が使われ、クッションゴム等を使うこともないので、道糸のクッション作用は口切れやライン切れによるバラシの防止にかなり役に立っていると思います。
私は、使い慣れている、品質と信頼性が高い、日本で買えば安いという理由でラインと針はほとんど日本製しか使いません。竿は、ニュージーランドの釣りニーズに合ったものがいろいろ販売されているので、こちらで買う事が多いです。